たとえビジネスで活躍している人であっても、会社の数字となると別、と言うことは良くあります。  「会計って苦手なんだよなぁ」 と苦笑しつつ頭をかく人が意外と多かったりして?

そんな方にお勧めなのが、 林總(はやし あつむ)先生のご著書、「餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?」です。

餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?

まずは、書名にもなっている「餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?」という問の答から。というか、実はこの問い自体がミスリーディングで、一概にどちらが儲かるとはいえないというのが答え。大事なのは、餃子屋と高級フレンチではリスクリターンのバランスが異なると言うことです。

高級フレンチは家賃、人件費、など固定費にお金がかかりますが、客単価は高いのでビジネスがハイリスクハイリターンになり、その逆に餃子屋は固定費が低い代わりに客単価も低いのでローリスクローリターンになります。この違いを理解してビジネスを展開していくことが大事なのです。

なお、実際の経営に当たっては、このリスクリターンのバランスを景気に合わせて変えていくべきです。すなわち、不景気の時には固定費をギリギリまで下げることによってローリスクローリターンで何とか乗り切り、好景気の時には積極的な設備投資で固定費が上がる分、より大きな利益を狙っていくべきです。本書の餃子屋と高級フレンチの例では、さすがに業態転換はできませんが…

貸借対照表 (バランスシート)は「現金製造機」

貸借対照表 (バランスシート)は「現金製造機」であると著者の林總先生は説きます。そのココロは、

会社の活動は、現金を使って現金を作ることだ。つまり、手持ちの現金を現金製造機に投入する。現金は機械の中のいくつかのプロセスを通過(材料→仕掛品→製品→売掛金)して再び現金になり、外に吐き出される。

とのこと。そして、

固定資産は現金製造機のことだ。在庫や売掛金などの流動資産は、投入した現金が新たな現金に返還される前の状態だ

と続きます。貸借対照表は、損益計算書に比べると直感的に分かりにくいものですが、このように例えられるとおぼろげながらその意味合いが見えてくるのではないでしょうか。

これと、上述の設備投資の話を合わせて考えてみましょう。好景気の時に設備投資を行うというのは、いわばこの現金製造機の効率を高めることになります。結果として現金がじゃんじゃん製造できて、大もうけになるわけです。ただ、どれだけ現金製造機の効率を高めたとしても、景気が悪くて原材料が入ってこない、つまり売上が少ない場合は現金を製造できません。結果として、現金製造機の稼働率が落ちてしまい、無駄な投資になってしまうのです。

会計を学ぶ意味合いと限界

本書の冒頭で著者の林總先生は、会計を学ぶ意味合いをこのように説明しています。

経営における会計の使命は、会社の活動を「可視化」することです。経営者やマネージャーはもちろん、すべてのビジネスパーソンは、経営を効果的に行うために、会計を学ぶ必要があるのです。もし、会計の知識がなければ、勘による手探りの経営を余儀なくされてしまいます。

これはまさに正しい指摘でしょう。昔の日本のように右肩上がりの経済情勢であれば、「勘による手探りの経営」でもよかったでしょう。しかし、今のような先が見えない時代は、より正確な意志決定のために会計の重要性が増します。

さらに本書の面白いところは、会計の限界も指摘しているところです。

会計数値が100%信頼できるかといえば、実はそうではないのです。

と言い切っているところ。

決算書は(中略)経営活動の「要約データ」に過ぎません。事実に近いけれども、あくまでもその数値は「近似値」です。

しかも、会計というのは過去のデータに基づいているわけですから、未来を予測するには別の観点の判断も必要になってきます。おそらくこの問題意識からでしょう、本書の第9章「機会損失と意志決定」、第10章「異常点に着眼し、原因を究明する」では、将来に関する意志決定をどう行うかという点にも踏み込まれています。

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