高名な経営学者のピーター・ドラッカー先生。そのドラッカー先生が会計について述べていることを知りたいと思ったとき手にとってしまうかもしれないのが林總先生のご著書、「コミック版 ドラッカーと会計の話をしよう」です。 ちなみに林總先生といえば、「餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?」で有名な方なので、思わず手が出そうです。ましてやマンガ版となれば、さぞや簡単にドラッカー先生の精髄が学べるのだろうな、と。ところが、結論としては難しいです。初心者にはお勧めできません。
ドラッカー曰く、利益はいいかげんな代物である
難しいと感じさせる一つ目が、会社の利益の認識。登場人物のひとり、メンター役の西園寺氏はこう説明します。
ボクは長い間ずっとその答を追い求めてきた。そして、利益がいかにいいかげんな代物なのかということを知ったんだ
もうこれだけで初心者は「?」となってしまうでしょう。ましてや、本書の後半で、下記の利益の3つの機能を説明しているならば、なおさらです。初心者は、「いったい何を信じたらいいの?」となってしまうでしょう。
- 事業活動の有効性と健全性の測定
- 陳腐化やリスクなどをカバーする
- 資金調達
もちろん、会計に慣れた人にとっては、「利益がいいかげんな代物」という言い方は分かります。要するに決算書上の架空のものだよね、と。ただ、それが分かる人は本書を手にとらないでしょう。むしろ、初心者に「いいかげんな代物」というのを納得してもらうためには、会計の原始ともいえる大航海時代、航海から戻ってきた際の利益の分配を計算するために発案された、という説明の方がピンとくるのではないでしょうか。
ドラッカーが説く予算管理の極意
もちろん、本書を読んでの発見もたくさんあります。たとえば、ドラッカー先生が説くところの商品の11分類。
- 今日の主力製品
- 明日の主力製品
- 生産的特殊製品
- 開発製品
- 失敗製品
- 昨日の主力製品
- 手直し用製品
- 仮の特殊製品
- 非生産的特殊製品
- 独善的製品
- シンデレラ製品
この中で、売上の90%は今日の主力製品を中心として社内の製品の中の10%からもたらされる、という指摘は納得です。加えて、今日の主力製品もほっておけば陳腐化して昨日の主力製品になってしまうので、明日の主力製品を育てる必要性があるというのも正しい指摘でしょう。
このような長期の視点、あるいはライフサイクルの視点は予算管理にも適用されて、
目標の達成に関しては、目先すなわち2,3年先と、その先の将来すなわち5年以上先との間のバランスを考える必要がある。このバランスは管理可能な支出についての予算によって実現される。近い将来と遠い将来のバランスに影響を及ぼす意志決定は、すべて管理可能な支出についての決定によって行わなければならない
という指摘は、ついつい目先にとらわれがちな私たちにとって有益だと感じました。
ドラッカーが指摘する現場の重要性
もう一つ気づいたのは、「現場を知る」ことの重要性です。本書でたびたび述べられているのは、会計という仕組みの「曖昧さ」です。初心者が会計を学ぶ時、「会計の数字は正しい」と思いがちですが、必ずしもそうではないことがたびたび指摘されています。
会計こそ最古の情報システムである。あらゆる意味で陳腐化しているにもかかわらず、理解できるなじみものものであるがゆえに、いまだ生きながらえている情報システムである
のように。
この会計の曖昧さを乗り越えるためには現場を知ることが重要で、ひとつの会社がお客様からお金をいただくという一連の流れ(ビジネスプロセス)を理解する必要があるとのスタンスです。そして、
ビジネスプロセスでの活動が材料に価値を付与して富を創出している。だがすべての活動が価値を創出しているわけではないんだ。(中略)損益計算書や料理の原価明細を眺めていても見えてこないんだ!!
と指摘されます。
一方で、経営者が現場のすみずみまで理解するのは、現実的には難しいでしょう。であれば、KPIを設定することによって数値による管理が可能であり、それもまた管理会計の一端であるとの解説があっても良かった気がします。
なお、上述の「管理可能な支出」に関しては、どかっカー先生は下記のように定義しているので付記します。
管理可能な支出とは、過去の投資から派生する費用のように取り消すことのできない意志決定の結果としての支出以外の支出、人件費や原材料費のように現在の事業から余儀なくされている支出以外の支出すべてである。それはまさに今日のマネジメントが決定する支出である。(現代の経営)
画像はアマゾンさんからお借りしました。
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